東京都杉並区では、区独自の事業として「SSW」という役職の職員を置いています。
ではSSWとはどういった仕事をする職員なのかなどについて詳しく見ていきましょう。
SSWはスクールソーシャルワーカー
杉並区が置いている「SSW」は
「スクールソーシャルワーカー(School Social Worker)」のことです。
簡単に言うと子供を取り巻く環境を改善する役割を持った区の職員で、
子育て支援政策の一環です。
核家族化や地域社会との繋がりが希薄となったことで、不登校や引きこもり、虐待、
貧困といった子供が抱える問題が表からは見えにくくなっています。
以前なら問題を抱えた子供のことを親が周囲に相談して解決策を見出していましたが、
地域社会との繋がりが希薄となっている現代ではそれも簡単ではありません。
子供が抱える問題を解決するために取り巻く環境を改善する役割を担うのが
SSWなのです。
欧米では早くからSSWを取り入れていますが、日本では1986年にSSWの取り組みが
始まったものの、その広がりは遅く全国に普及するまでには至っていません。
2020年時点のSSWは3000人足らずで、
対応した学校数は全国の小中学校約3万校に対して18,000校余りに留まっています。
SSWの成果はなかなか見えにくいものの、宮城県では引きこもり・不登校だった子供が
SSWの働きによって別室ながら登校できるようになったという事例もあります。
SSWの活動内容
「子供を取り巻く環境を改善する」では抽象的すぎるので、
SSWがどういった活動を行っているのかを具体的に紹介します。
SSWの活動は
・直接的支援
・間接的支援
の2つに大きく分けられます。
「直接的支援」は問題を抱える子供の相談に乗り、その問題を解決するために
家庭や学校、地域などに環境改善を働きかける活動です。
子供が抱えている問題によっては、
保健・医療・福祉のサービスを提供している団体などと連携することもあります。
「間接的支援」は子供にいつでも直接的支援が行えるように
体制を整えておく活動のことです。
例えば問題を抱えている子供の情報が素早く入手できるように、
普段から保護者や学校と良好な関係を構築します。
子供にSSWの存在を知らせることや教職員にSSWの役割を理解してもらうための
研修なども行っています。
保健・医療・福祉のサービスを提供している団体とも関係を構築して、
子供が抱える問題に素早く対応できるようにしているのです。
警察と連携することも
SSWは子供が抱える問題によっては警察と連携することもあります。
先の宮城県の例では、
引きこもり・不登校の子供の家を繰り返し訪問して母親と面談を重ねました。
母親との面談で父親の問題行動も見えてきたため、
警察や児童相談所と連携して父親とも面談を重ねます。
さらにSSWと担任の先生が月1回の家庭訪問を行うことで家庭環境が改善され、
引きこもり・不登校だった子供は登校して別室ながら勉強するようになりました。
文章だとそれほど難しいそうには見えませんが、
問題を抱える子供の家庭に介入することは決して簡単なことではありません。
しかし時には警察と連携してでも介入して環境を改善しないと、
子供の抱える問題を解決できないこともあるのです。
SSWの種類
SSWには
・配置型
・派遣型
・巡回型
の3つの種類があります。
「配置型」はそれぞれの学校に配置されたSSWで、
教職員と同じように学校に常駐しています。
「派遣型」は教育委員会や自治体に所属して、
学校側からの要請に応じて派遣されるSSWです。
「巡回型」は配置型と派遣型の中間で、
教育委員会や自治体に所属して複数の学校を順番に訪問するといった形になります。
それぞれの学校にSSWが常駐していることが理想ですが、
現状では一人のSSWが複数の学校を順番に回る巡回型が一般的です。
SSWの基本姿勢
SSWの普及推進を行っている「日本スクールソーシャルワーク協会」は、
SSWとして活動する上での基本姿勢を示しています。
1つ目は「子供の尊厳の尊重」で、
子供を子供としてではなく1人の個人として尊重して接することです。
相手が子供だと思っていると抱えている問題を矮小化して捉えてしまう恐れがあるので、
1人の個人として向き合い接することが重要なのです。
2つ目は「子供の最善の利益」で、SSW自身はもちろん学校や保護者ではなく
子供にとって最善であることを第一に考えるということです。
学校や自治体に雇われていると組織が第一で子供は二の次になりがちですが、
SSWはあくまで子供ファーストでないといけません。
3つ目は「パートナーシップ」で、子供と一緒になって問題解決に取り組むことです。
大人にとって最善の方法で解決しても子供にとっては意味がないので、
子供と一緒に子供にとって最善の解決策を探すわけです。
4つ目は「ストレングス視点」で、
子供が抱えている問題よりも子供が持つ可能性を優先します。
日本の教育では弱点の矯正に重点を置きがちですが、
SSWは子供の長所を伸ばし可能性を広げることを考えます。
5つ目は「エコロジカル視点」で、子供と子供を取り巻く環境との相互影響に焦点を
当てて問題解決に取り組むということです。
学校や家族、友人など子供を取り巻く環境が子供が抱える問題の原因と
なっていることもあるので、環境を改善して問題解決へ導くのです。
6つ目は「自己決定」で、物事を子供自身が決定するようにサポートします。
自分で物事を決定することで結果に対して責任を持つようになり、
達成感や幸福感がより高まるとされています。
7つ目は「連携調整」で、学校などの関係機関や保護者などの支援者と連携して
子供の問題解決に取り組むことです。
8つ目は「代弁」で、
子供に代わって子供の言いたいことを先生や保護者に伝えてあげます。
子供は無邪気であると同時に大人に気を遣っているので、
特に近しい間柄である先生や親には言いたいことが言えないこともあります。
言いたいけど言えないことを子供に代わってSSWが先生や親に伝えるわけです。
9つ目は「秘密保持」で、
子供から聞いた話など子供の情報を不用意に他人に話さないことです。
大人にとっては些細なことでも、
子供にとっては重大で誰にも知られたくなことだったりします。
それを先生や親などにベラベラと話すようでは子供の信用を失って問題解決が
遠のくので、子供から聞いたことは必要以上に話さないことが求められるのです。
SSWになるにはどうすれば良い?
SSWに専門の資格はありませんが、SSWになるには
・社会福祉士
・精神保健福祉士
・臨床心理士
のいずれかの資格取得が必要です。
「社会福祉士」は国家資格で、
合格率が約30%と福祉系の国家資格の中ではもっとも低くなっています。
社会福祉士の試験を受けるには、福祉系大学で4年間指定科目を履修して卒業、
3年間指定科目を履修、相談援助実務を1年以上などの要件を満たす必要があります。
「精神保健福祉士」も国家資格で、
合格率は60~65%と社会福祉士ほどハードルは高くありません。
(低くもないです)
福祉系大学で4年間指定科目を履修、4年間基礎科目を履修して
短期養成施設6か月以上などの要件を満たさないと受験できません。
「臨床心理士」は民間資格で、合格率は65%前後と比較的高いです。
ただ受験するには、日本臨床心理士資格認定協会が認定している
第1種指定大学院を修了するなどの要件を満たさないといけません。
大学院を修了する必要があるので、
臨床心理士の試験を受けるだけでも少なくとも6年はかかるということです。
社会福祉士と精神保健福祉士は資格取得後に
「スクールソーシャルワーク教育課程」を修了しないといけません。
臨床心理士は資格取得後に福祉系大学院の修了が必要です。
杉並区のSSWは非常勤なので不要ですが、
常勤のSSWとなるには公務員試験にも合格しないといけません。
SSWとスクールカウンセラーとの違いは?
SSWと同じように子供が抱える問題を解決する「スクールカウンセラー」という役割も
あります。
SSWとスクールカウンセラーには
・SSWは取り巻く環境を改善して子供の問題を解決する
・スクールカウンセラーはカウンセリングによって子供の心の問題を解決する
といった違いがあります。
子供が抱える問題を解決するという点では同じですが、
解決に至るプロセスが違うのです。
ただ現状ではSSWとスクールカウンセラーで明確に役割が分担されているわけでは
ありません。
SSWがカウンセリングすることもありますし、
スクールカウンセラーが環境改善から問題解決にアプローチすることもあります。
スクールカウンセラーは臨床心理士が務めていることが大半で、
臨床心理士はSSWを務めることもできます。
子供が抱える問題が解決するのに役割やプロセスは関係ありません。
SSWでもスクールカウンセラーでも肩書は意識せずに、
あくまで子供の問題を解決することに重点を置いて活動することが重要です。
杉並区にはもう1つ「SSW」がある!?
SSWと言えば一般的にはスクールソーシャルワーカーですが、
実は杉並区にはもう1つ「SSW」があります。
杉並区のもう1つのSSWは「杉並さわやかウォーキング」です。
65歳以上を対象に区内の12公園を拠点とする
ウォーキングイベント「公園から歩く会」を年間100回以上運営しています。
ウォーキングイベントだけでなく、効果的な歩き方の指導や継続方法など
ウォーキングに関する情報の提供も行っています。
ウォーキングを通して高齢者のフレイルや認知症の予防する活動も行っているのです。
スクールソーシャルワーカーは子供、杉並さわやかウォーキングは高齢者と対象は
違いますが、いずれのSSWも人の問題解決に役立っています。
まとめ
杉並区のSSWはスクールソーシャルワーカーのことで、
子供を取り巻く環境を改善して子供が抱える問題を解決する役割を担っています。
なかなか普及が進まないSSWをいち早く導入した杉並区は、
子育てがしやすい環境と言えるのではないでしょうか。